2015.9.22 by Ken
地球への強い想いから様々な環境活動をされています。先日のフォーチュン誌のメッセージが素晴らしいので、抄訳を掲載させて頂きます。また、TVインタビューからも抜粋いたしました。
今年は国際会議 "COP21" で各国が温暖化ガス排出抑制の新方針を示す重要な年です。それを前に2大排出国、中国・米国間の主要市長レベル会議が 9/15-16にLAで行われ、キャメロン監督もゲストスピーカーとして呼ばれました。両インタビューはこれに関したものです。
※COP21・米中会議については別ページに掲載予定。
(9/14、フォーチュン誌)
ジェームズ・キャメロン氏は映画監督でありながら、環境活動にも熱心に取り組まれています。9/15にLAで開催された米国・中国環境リーダーサミットでは、両国の主要都市のリーダーが持続的かつ成長力のある低炭素社会を実現するための政策・技術利用が検討され、同氏はスピーカーとして招かれました。
政府の栄養政策アドバイザーをされていたサム・カース氏(ホワイトハウスのシェフ、ミシェル・オバマの国民健康開発計画「Let's Move」も主導)とともに「Food for Sustainable Nations(持続的国家のための食事法)」という題名でスピーチを行いました。食料消費および生産のシステムや、食事と気候変動の関係をテーマとしています。
(質問)どのようなことがきっかけで食事面から気候変動に立ち向かうことになったのですか?
私は60~70年代に幼少期を過ごしたので常に環境への意識はありましたが、この15年ですね、気候変動と再生エネルギーに特に意識するようになったのは。国際協調・政府の無策から失望をしていましたが、あることから希望を持つようになりました。それは、家畜産業のGHG排出量が膨大だと気付いたことです。交通手段が全体の13.5%なのに対して14.5%。家畜であれば、人々の意識を変えることで今すぐに減らすことができるからです。技術革新、エンジン開発、交通手段の電動化、再生エネルギーへの大掛かりな切り替えに頼らずにできます。
(質問)このサミットが国際的にその方面で話し合いが進む場になりますか?
私たちは18ヵ月の期間とかなりの資金を投入して調査を行ってきましたが、専門家の見解から判明したのは「畜産」に手を付けなければ排出削減目標を達成できないということです。巨大なエネルギーセクターと、より小さな交通手段には注目されていますが、2番目に大きな畜産業は議論されてこなかったのです。これは各自の食の選択だけですぐに減らせる部分です。
(質問)企業が今やらなければならないのは、どのようなことですか?
私から企業に何をしろとは言いません。文明の存続がかかっていて、気候変動を抑制するより気候変動が起きてしまったあとに対応する方がとてつもなく大変になることを理解すべきです。人々はまだ畜産と気候のつながりを認識できていません。干ばつ、砂漠化、塩害、肥沃な農地・三角州の縮小という悪循環が進行しています。2050年までに世界人口が90億人増え、食糧生産を7割増やす必要があるのに環境は悪くなる一方です。
(質問)技術やイノベーションについては、いかがでしょうか?
多くのことを変えないといけない状況です。機会を探して変化をリードする立場になるか、古いものにしがみついて死に絶えるのを待つか、どちらになるのかということです。後者の例がコダック社ですね。フィルム産業から転換せずにデジタル化の流れのなかで失速し墜落しました。求められているのは食料システムの変化で、肉や乳製品の生産から植物の生産に重きを置かなければならず、その変化を推進する側になるか、変化に置いていかれる側になるかの分かれ目なのです。
(質問)人々に向けて食肉・乳製品の消費に関して言いたいことはありますか?
人々に肉をやめなさいと言うことはありません。必要なのは、食卓に何を出すかの選択が直接的に気候に影響を及ぼしていることを各自認識してもらうことです。アマゾンの森林伐採の75%は放牧や家畜のエサとしての穀物生産によるものです。仕組みは複雑ですが、結論としては、簡単な選択をするだけであなたも地球も健康になるということです。しかも植物性の食事は安くできるので経済的です。カーボン・フットプリントも少なく、水消費も少なく、あなた自身にもよいのです。
キャメロン氏は、短い時間に具体例を交えて興味深い話をされました。米国の政治情勢とともにご紹介いたします。
インタビューのあった同じ日、来年の大統領選に向けた2回目の共和党TV討論会がありました。異国・異文化蔑視で知力にも欠けるドナルド・トランプ氏が、「強いアメリカを取り戻す」のスローガンだけでまさかのトップ人気となり、CNNが放映したその討論会は全米で注目され過去最大の視聴率でした。
この10年間、米国ではシェール産業が急拡大し、石油業界から支援を受けている共和党は温暖化を認められない状況にあります。レーガン元大統領の記念館で開催され、11人の激戦ということもあり各候補とも気合いが入っていましたが、温暖化問題に触れられることはありませんでした。これは深刻な事態です。科学者の97%が温暖化は人間によるものと断定していて、気候変動の影響は米国内だけでも大問題となっているにも関わらず、共和党候補はそれらを否定しないといけない状態なのです。
キャメロン氏も皮肉を交えて伝えています。まず、共和党討論会のすぐ近くで異常気象に起因した大火災が発生して、その記念館も危うく燃えるところだったといいます。アリゾナでは同じ異常気象で過去にない大洪水が発生し、多くの死傷者が出ています。数日前のLAタイムズ紙には、4/1時点のシエラネバダ山脈の積雪量が平年の5%しかなく、500年来で最低との報道があったとのこと(カリフォルニア州は水源の1/3が地下水、1/3が河川で、残り1/3を積雪に頼っているため非常に重要)。
NBCなので基本的に共和党批判・オバマ肯定的ですが、それに関係なく共和党の問題は明らかです。上院・下院で共和党が過半数を握るなかではトップダウンで政策決定することは難しい状況です。また、米国では2010年の最高裁判決により献金制度が緩くなり(Super PAC)、大統領選挙に巨額のお金が動くようになったため、なおさら企業に不利な政治活動がしにくい状況となっています。キャメロン氏は、この問題の対応を市民からのボトムアップで進めないといけないと言います。
金融危機も去り国民に余裕が出てきて、異常気象・温暖化を心配するようになってきていると言います。客観的事実はたくさんあります。一方、まだ原因と結果をつなげられない方もいます。例えば欧州のシリア難民問題があります。シリアの内戦やイスラム国の台頭が原因ですが、元をたどると大干ばつによって150万人の農家が都市に流れ込んできたところから始まり、その干ばつは科学者によると気候変動によるものだということです。気候変動への対応はコストがかかるから国民も政治家も躊躇しがちですが、「気候変動に今対応しないことによって発生する将来コストは、今対応するよりもかなり巨額になってしまうことを忘れてはならない」と、早急な国民の行動を促しています。
さて中国についてです。「2013年だけでも、中国が1年で導入したソーラーパネルの数は、発明以来、米国が導入してきた総数よりも多く、しかもソーラーは米国で発明されたものだ。」と米国の残念な状況を説明します。米国の政治家には中国がやらずに自分だけがやるのは損だという理屈がありますが、実際には中国は再生可能エネルギーの導入に前向きになっているとのこと。国民や国内企業からも化石エネルギーからの転換の圧力があるからだといいます。
最後にキャメロン氏が進める "Food Choice Taskforce" 運動についてです。温暖化ガス排出源としてエネルギーに次ぐ産業は農業ですが、多くの方はまだ自分が何を食べるかによって地球の持続性に影響があると認識できていないため、そのことを広める活動をしていきたいとのことです。