栄養学の基本 - 糖質

制作 Ken 監修 Yuko & Yukiko
糖質とは甘いもの?

「糖質」(saccharide)とは、「三大栄養素」(糖質・脂質・タンパク質)の1つで、エネルギー源として重要な物質群です。糖質は「甘いもの」とは限りません。ご飯やパスタの主成分、ジャガイモなどに含まれるデンプンも糖質です。逆に、人工甘味料のなかには糖質とは関係ない物質から合成したものも多くあり、これらは甘くても糖質ではありません。

「炭水化物」(carbohydrate)という用語も、一般には糖質と同義です。ただし、栄養学では炭水化物のうちヒトが消化できるもの(栄養になるもの)を糖質、消化が難しいものを「食物繊維」(dietary fiber)に区分けしています。なお、炭水化物は動物性食品には殆ど蓄積されていません。

糖質ならどれも同じ?

糖質には多くの種類がありますが、下表が主なものです。基本的なまとまりが「単糖」で、それが複数結合したものが「二糖」や「オリゴ糖」(少数糖)や「多糖」です。味の違いだけでなく、栄養面では消化のしやすさ、体内への吸収速度、血糖値の上昇速度などに違いがあります。それ以外に、それぞれ効用も異なります。食事からの摂取としては穀類・芋類が主体になりますが、総合的な栄養バランスを考えて果物・野菜などからも摂取することが必要です。

なお、「オリゴ糖」というと、「お腹によくて低カロリーの甘味料」というイメージがありますが、定義では単糖が3~10程度結合した糖質のすべてを指し(オリゴとは「少数」の意味)、機能性とは関係がありません。このうち、店頭でオリゴ糖の名前で販売されている商品は、主に善玉腸内菌のエサになることを狙いとしていて、ヒトの酵素では消化されにくい(大腸まで到達する)種類のオリゴ糖を抽出・合成などしたものです(後述)。

炭水化物の種類
糖質の役割はエネルギー?

ヒトが糖質を含む食品を食べると、消化器系で単糖まで分解されて血管に吸収されます。さらにグルコース以外の単糖は、基本的にはグルコースに変換されてエネルギー利用されます。そのため、体内で最も重要な糖質は「グルコース」(ブドウ糖)です。そして、血液内のグルコース濃度を測ったものが「血糖値」です。

グルコースが体内の必要な場所でエネルギーになることで、脳を活動させたり、筋肉を動かしたりできます。タンパク質・脂質もエネルギー源になりますが、糖質は消化が早く、すぐにエネルギーになります。一般に、1グラムの糖質は約4キロカロリーのエネルギーとなります。

また、糖質には、エネルギー源としての役割以外にも重要な機能が幾つもあります。核酸の合成や、タンパク質と結合して機能するなど、体にとって必須の物質なのです。「糖質=太る」というイメージから糖質を避けるのはとても不健康です。

糖質を取りすぎると太るのはナゼ?

ヒトは余ったグルコースを貯蔵する機能を2つ持っています。1つは「グリコーゲン」で、たくさんのグルコースを結合させた多糖です。必要なときにグルコースに分解して利用します。もう1つは「脂肪」です。グリコーゲンはたくさん貯められないため、さらに余ったグルコースは「中性脂肪」に変換され、皮下脂肪・内臓脂肪として貯蔵されます。脂肪分を取らなくても、甘いものを食べすぎると脂肪がつくのはこのことが原因です。

体内では、血液中のグルコース濃度(血糖値)が高くなると問題が起きるため、血糖値を安定に保つ仕組みがあります。血糖値が高くなるとインシュリン(インスリン)というホルモンが膵臓から分泌され、グリコーゲンや脂肪の生成が促進されるようになっています。

一方、糖質を取らなくても、「糖新生」といって脂肪の分解や一部のアミノ酸などからグルコースを体内で作り出すことが限定的ながらできます。そこで、炭水化物の摂取を減らす「アトキンス・ダイエット」「低炭水化物ダイエット」と呼ばれるダイエット法が生まれましたが、実効性が低いうえに様々な健康上の問題が発生しました。詳細は省略しますが(ネット上に医師・栄養士による解説がありますのでそちらをご参照ください)、脳がエネルギー不足になったり、体のバランスが崩れたり、タンパク質過多になったりします。ダイエットに近道はありません。バランスのよい食事と運動が必須なのです。

糖質はどれぐらい必要なの?

厚労省の基準では、成人で、1日に必要なエネルギー量の50~70%を糖質で取ることが推奨されています。1日に必要なエネルギー量は運動量や性別・年齢によって大きく異なりますが、標準的な数値で大まかに試算しますと、下表のようになります。

穀類・芋類を中心にしつつも、総合的な栄養バランスを考えて果物などからも取るようにしましょう。また、同じ穀類でも、精製された白米や小麦粉などは玄米や全粒粉よりも様々な栄養価で大きく劣ります。玄米や全粒粉を使ったパン・パスタを食べるようにしましょう(なお、「全粒粉パン」「全粒粉パスタ」と書かれた商品でも、食感をよくするため、一般的に全粒粉の比率は原料の半分以下ですのでご注意ください)。

なお、主食以外にも、糖分を多く含む菓子や飲み物などを取る場合には、それらも計算に入れる必要があります。

糖質の推奨摂取量
※食品換算量: 穀類・果実のエネルギー源の殆どが糖質のため(タンパク質は糖質との重量比で1割以下、脂質はほぼゼロ)、ここでは便宜的に「必要な糖質」を各食品の「全エネルギー量」で割って計算しています。
オリゴ糖の効用は?

店頭でオリゴ糖の名前で販売されている商品は、「オリゴ糖」(少糖類)のうち、主に善玉腸内菌(ビフィズス菌など)のエサになることを狙いとしていて、ヒトの酵素では消化されにくい(大腸まで到達する)種類を抽出・合成などしたものです。そのため、食物繊維と同様、栄養素としての糖質とは別物として考えます。

善玉腸内菌など消化器系に生存して人体に良い影響を与える微生物を「プロバイオティクス」(probiotics)といい、腸内の悪い物質を分解し、ガンを予防し、免疫機能をアップさせるなど、様々な効用が注目されています。オリゴ糖や食物繊維はプロバイオティクスのエサとなり、これらは「プレバイオティクス」(prebiotics)と呼ばれています。オリゴ糖はサプリとしても販売されていますが、主にローカロリー甘味料として販売されていますので、砂糖の代わりに使うとよいでしょう。ただし、一度に多量に摂取するとお腹がゆるむことがあるので注意しましょう。

砂糖は危険? シュガーレスは?

白砂糖が危険というのをよく耳にするようになりました。精製過程で体によくない化学薬品が使われることや、酸性であることに加え、薬物依存と同様の依存性質があるといったことがその理由です。その影響度合いはともかくとして、白砂糖よりも精製されていない黒糖の方が栄養面でもよいですし、それよりも高温加熱していないもの(果実、アガベシロップ、ステビアなど)の方がよいとされています。その他に甘味料としては、オリゴ糖のような機能性の低カロリー甘味料もありますし、人工甘味料もあります。

それぞれに特徴があってどれがよいともいえませんが、人工甘味料には注意が必要です。一部の天然由来のもの以外は危険である可能性があります。後になって発ガン性等が確認された例が何件もありますので、なるべく避けるようにしましょう。

また、果糖(フラクトース)は摂取量に注意が必要です。糖尿病などの方では摂取制限を指導されることがあります。健康な方が果実の形で取るのは栄養的に好ましいことですが、果糖を工業的に濃縮した甘味料が使われているジュースや菓子などは肥満や糖尿病などとの関連で問題となっています。

糖質は老化の原因?

最近は糖質とアンチエージングの関連も耳にするようになりました。といっても、糖質を食べたら老ける、糖質を食べなければ老けないという単純な話ではありません。

体内の細胞を構成するタンパク質や脂質には、酵素の働きによって糖質が結合して機能を発揮するケースが多々あります。これらを糖タンパク質、糖脂質といい、正常な反応です。一方、酵素の働きを経ずに、糖質が勝手にタンパク質や脂質に結合してしまうことを「糖化反応」(glycation)といい、体に害を与える物質ができることがあります。糖化反応を受けたタンパク質などは複雑な反応を経て最終的に「糖化最終産物」(AGE = advanced glycation end-product)となります。

生成物のなかには害がないものもありますが、ガン、神経障害、アルツハイマー、心筋梗塞などの原因となるようなものもあります。どうやったらこれを減らせるかはこれからの研究です。AGEsを含む食品を食べると、有害な生成物が体内で増えるという研究もあるようです。タンパク質・脂質を糖質とともに120℃以上で熱するか、より低温でも長時間熱すると糖化反応物が生成するので、そもそも不健康なドーナッツやフライドポテト(色をよくするために砂糖が使われる)などはこういった理由からも避けた方がよいようです。

牛乳で下痢するのも糖質が原因?

牛乳にもヒトの母乳にも乳糖(ラクトース)が含まれますが、消化するためにはラクターゼという消化酵素が必要です。小腸でこの酵素の分泌が少ないと乳糖が消化されないまま大腸へと流れ、大腸の主な役割である水分吸収を妨げて下痢になることや、腸内細菌により分解されて発生した二酸化炭素で腹部膨満となることがあります。これを「乳糖不耐症」といいます。

そもそもこれは病気というよりは自然な現象です。乳汁というのは乳児のための栄養物ですので、哺乳類は成長するとラクターゼの分泌が低下するようにできています。また、牛乳というのは、ヒトとは全く異なる消化器系を持ち必要栄養素も異なるウシの乳児の栄養物ですので、ヒトの成人が摂取するには全く不適当なのです。

20世紀中頃までは栄養価の高い牛乳は「完全な栄養食」として宣伝されてきましたが、近年は牛乳を飲むほど病気になるため、「完全な病気食」として位置付けられるようになっています。

最も意外な事実は、牛乳の摂取が多い国は骨粗しょう症の発症率が高いということ。また、脂肪分により心臓病の発症率が高まり、牛乳に含まれるインスリン様成長因子(IGF-I)により前立腺ガン・乳ガンの発症率が高まるとされています。カゼインというタンパク質も生活習慣病リスクが高いとされています。ウシに投与される大量の成長剤、抗生物質、汚染物質・殺虫剤なども問題となっています。加えて、牛乳には依存性があります(乳児がたくさん飲んで健康に育つように、牛乳に限らず全ての乳汁には自然と依存性のある物質が含まれています)。

危険性の高い食品ですので、代わりとなる健康的な食品を取るようにしましょう。

(まとめ)糖質の確認

食物繊維も含めた炭水化物を機能性によって整理しますと下表のようになります。

人間の体は複雑な構造をしています。糖質を取ればよいと言っても、グルコース(ブドウ糖)を点滴すればよいというわけにはいきません。ところがうまく適応されていて、なるべく天然の形で様々な食品をバランスよく取ると、体内で調整をしてくれるのです。以下の点に注意して、適量をバランスよく取るようにしましょう。

糖質・食物繊維・甘味料の整理

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(注意)必要な栄養素や量については個々人の体質や活動状況によって異なります。
特に、内臓に疾患のある方やアレルギーのある方などは医師にご相談ください。