栄養学の基本 - 脂質

制作 Ken 監修 Yuko & Yukiko
脂質は体に悪いもの?

一般には脂身のような固形のものを脂肪や脂と言い、植物油などの液体状のものを脂肪油や油などと言いますが、医学・栄養学ではこれらを併せて「脂質」(lipid, dietary fat)と呼びます。

脂質というと、肥満や生活習慣病の元凶というイメージがあり、食べない方が健康的と思われがちですが、脂質はエネルギー源として重要なだけでなく、脂溶性ビタミン(ビタミンAやビタミンEなど)の吸収を助け、また、ある種の脂質は体内で作り出せないため食事から取ることが必須となっています。

脂質は人体に必要不可欠な物質で、主に2つの役割があります。1つは膨大なエネルギー貯蔵庫としての役割で、主に「脂肪組織」(皮下脂肪や内臓脂肪)として蓄えられます。もう1つは細胞の構成物質や体内の伝達物質としての役割で、全身のあらゆる細胞に取り込まれています。

このセクションを通して、どのような脂質を、どのような形で、どれだけ食事から取らないといけないのか、あるいは不足・過剰な場合にどのような病気になるのかを把握しておきましょう。

脂質摂取の過不足の影響
脂肪とコレステロールは同じもの?

食品に含まれる脂質の殆どは「中性脂肪」と「コレステロール」です。混同されることもありますが全くの別物です。両方とも水になじまないため、「リポタンパク質」というカプセルに入れないと血液で運べないという点で共通するものの、体内での役割は大きく異なります。混同しないように注意しましょう。

中性脂肪は油脂の主な成分です。「グリセロール」という土台に「脂肪酸」(中性脂肪の本体)が3つ結合したもので、その脂肪酸には幾つもの種類があります。体内で利用するときには3つある脂肪酸を切り出して使うため、その組み合わせによって機能が変わることはありません。ただし、それぞれの脂肪酸には特徴があります(後述)。

一方のコレステロールも脂肪分に含まれていますが、植物内には殆ど存在せず、動物性食品でも中性脂肪に比べると量的にはごく少量です(1%など)。ただし、少量でも大きな作用をするので摂取量には注意が必要です。エネルギー源ではないので、「三大栄養素」(糖質・脂質・タンパク質)としての脂質は中性脂肪のことを指します。

中性脂肪はエネルギーの源?

中性脂肪はエネルギー価が高く、糖質やタンパク質の1グラムあたり4キロカロリー程度に対して、中性脂肪は1グラムあたり9キロカロリー程度もエネルギーを作り出すことができます。そのうちグリセロールが1割、脂肪酸が9割ぐらいを生み出します。なお、グリセロールは、体内にグルコースが不足した場合に「糖新生」というプロセスによってグルコースに変換することができる物質です(脂肪酸は糖質に変換できません)。

「糖質」のセクションで説明の通り、余ったグルコース(ブドウ糖)はグリコーゲンとして蓄積しますが、たくさん貯められないため、さらに余ったグルコースは脂肪組織(皮下脂肪や内臓脂肪)として蓄えます。食事から取った中性脂肪も、余った分は脂肪組織として蓄えます。

グリコーゲンは2,000キロカロリー程度しか蓄積できないのに対して、平均的な体重80キロの成人男性でその50倍以上の11万キロカロリーも脂肪組織として蓄えています。フルマラソン1回走ると80キロの体重の人で3,400キロカロリー程度を消費するとされていますので、かなりのエネルギーが蓄積されていることになります。

脂肪酸にはどのような種類があるの?

脂肪酸は、炭素と水素の鎖状になっています。鎖の長さや、鎖の一部に水素の欠落があるか(「二重結合」といいます)によって様々な種類がありますが、主なものは下表のとおりです。

主な脂肪酸の種類

構造的な特徴としては、「飽和脂肪酸」は二重結合がないもの、「一価不飽和脂肪酸」は二重結合が1つあるもの、「多価不飽和脂肪酸」は二重結合が複数あるものです。

大きな性質の違いといえば「融点」(固体から液体になる温度)で、鎖が長いほど融点が高くなり(常温で固体)、二重結合が増えると融点が低くなります(常温で液体)。また、一価不飽和脂肪酸は酸化(劣化)しやすく、多価不飽和脂肪酸は更に酸化しやすい特性があります。

体内での作用は脂肪酸の種類によって異なります。ヒトの体内では、飽和脂肪酸から一価不飽和脂肪酸のオレイン酸に変換できますが、オメガ6系(n-6系とも言います)とオメガ3系(n-3系とも言います)の多価不飽和脂肪酸は作り出せないためこれらを「必須脂肪酸」と呼び、食事から取る必要があります。

エネルギー源としてみたときには、鎖を分解しながら利用するため、どの脂肪酸も基本的には同じです。

中性脂肪はどうやって消化するの?

脂質は取扱いが難しい物質です。手についた油を落とすのが大変なように、水に溶けない脂質を分解・吸収し、体内(血液)に流すのには、特別な仕組みが必要です。

まず小腸に入ると、胆汁で乳化されて小さな粒になり、リパーゼという酵素によって分解されます。この段階で、鎖の短い「中鎖脂肪酸」(炭素が6~12個程度)は吸収され、直接肝臓に流れてすぐにエネルギーとなります。

一方、中性脂肪に含まれる脂肪酸の大部分は、鎖の長い「長鎖脂肪酸」です。時間をかけてゆっくり分解・吸収されると、体内で再び中性脂肪に組み立てられます。そして、コレステロールや脂溶性ビタミンとともに、水になじむリポタンパク質と呼ばれるカプセルに閉じ込められ、血液を通じて全身に運ばれます。必要な個所で分解されて脂肪酸が切り出され、エネルギー源や細胞組織の一部として使われます。血中にエネルギー源(グルコース、アミノ酸、中性脂肪)が余っている場合には脂肪組織として蓄積されます。逆に、運動などをしてエネルギーが不足した場合には、脂肪組織に蓄積された脂肪酸が切り出されて使われます。

このように、どのような種類の脂肪酸を摂取したかによって、体内に蓄積する脂肪酸の構成が異なります。これに、余ったグルコースやアミノ酸から体内で作られる脂肪酸(パルミチン酸)が加わり、更に、酵素の働きによって前表にあるような変換も行われて体内の脂肪酸の構成が変わっていきます。

コレステロールは必要なもの?

脂質に分類される栄養素には、中性脂肪の他にコレステロールがあります。コレステロールは、エネルギーにもならず生活習慣病との関連が指摘されているため、不要なものではないかと誤解されがちな栄養素です。コレステロールはヒトの体に不可欠な物質で、細胞膜の部品となり、胆汁酸や一部のホルモンやビタミンDの原料にもなります。

ヒトは体内で必要なコレステロールを合成できますが、食事から取ったとしても体内合成の量が減るように調整機能が働きます。平均的には、1日あたり体重1キロあたり12~13mg (体重50kgの人で600~650mg)を体内で生産していて、食事からは標準的には300mg程度を摂取し、その半分程度が吸収されます(但し個人差がかなりあります)。大量に摂取した場合には血中コレステロールが上昇する可能性があり、摂取量には注意が必要とされています。

さて、コレステロールというと、「善玉(HDLコレステロール)」と「悪玉(LDLコレステロール)」の2種類があるように思われていますが、そうではありません。コレステロールは、中性脂肪などと一緒にリポタンパク質という外側が親水性の団子状にまとめられて体内を運ばれていきます。そのリポタンパク質の種類に HDL や LDL があるのです。LDLは主にコレステロールを全身の細胞に運ぶ役目を担い、HDLは逆に細胞から肝臓にコレステロールを戻す役目などを担っています。血中のLDL値が高すぎる場合や、HDL値が低すぎる場合に病気のリスクが高まるとされています。

食品に含まれる脂質にはどのような違いがあるの?

それでは、具体的な食品で脂肪酸やコレステロールの構成を見てみましょう。主な食品について、下表にまとめました。

食品100gごとの脂肪酸構成(g)、及び、コレステロール(mg)
(出典) 主に「日本食品構成成分表2010」(文科省)、一部「USDA National Agricultural Library」
(*) 高オレイン酸タイプのサフラワー油
植物油

一般に、寒い季節や寒い場所で生育する動植物ほど融点の低い脂肪酸が多く含まれているとされていて、南国のココナッツ油(ココヤシ)・パーム油(アブラヤシ)は飽和脂肪酸の高い油脂です。

飽和脂肪酸は血中コレステロールを上げるのでよくないとされていますが、ココナッツ油は加熱調理に使う油としてはオススメの1つです。ココナッツ油は唯一、ラウリン酸など鎖の短い「中鎖脂肪酸」が脂肪酸全体の 2/3 を占め、体内でエネルギー消化されやすく、飽和脂肪酸の害が少ない特徴をもった油です。また、熱すると酸化しやすい多価不飽和脂肪酸を殆ど含まないため、加熱調理に適しています。更に、ラウリン酸から変換されるモノラウリンという物質には抗菌・抗ウイルス効果があるとの研究結果があります。

紅花油(サフラワー油)には、「高オレイン酸タイプ」と「高リノール酸タイプ」とがあります。元々、ベニバナの種子はリノール酸(オメガ6系)を多く含むのですが、後述のように近年はオメガ6系の過剰摂取が問題となっているため、リノール酸が少ない代わりにオレイン酸の多いタイプが開発され、主流となっています。

オリーブ油も、高オレイン酸タイプの紅花油と似た脂肪酸構成をしていますが、こちらは調味料として使うことも多い油です。ギリシャ人の長生きの秘訣と言われていて、総合的にみて健康に有用とされています。

菜種油(キャノーラ油など)は、紅花油(高オレイン酸タイプ)よりも多価不飽和脂肪酸が多い(酸化しやすい)のですが、オメガ6に対するオメガ3の比率がよいという特徴があります。

亜麻仁油はオメガ3脂肪酸を極めて多く含む食品の代表格です。加熱せず、サラダにかけるなどして使うとよいでしょう。空気に触れると酸化しやすいので、保管に注意をして早く使い切るようにしましょう。

動物油脂・マーガリン等

ラードやバターは、脂肪酸構成としては飽和脂肪酸が高く、動物性のためコレステロール含有が高くなっています。一方のマーガリンは、主に植物油を原料としていて(牛乳などを加えた製品もあります)、常温で液体の植物油を水素添加によって固形化したものですが、その過程でトランス脂肪酸が発生します。どの程度の健康害があるのかは明確ではないものの(悪影響なしとの医学調査もあります)、組成を無理に変化させた油であることには違いありませんので、避けた方がよいでしょう。焼き菓子などを作る際には便利ですが、工夫をすれば使わなくも美味しく作れますので研究してみてください。

動物性食品

動物性食品では、飽和脂肪酸の比率が高く、コレステロールも多く含まれます(特に卵)。魚類はオメガ6系に対するオメガ3系の比率が高いのが特徴です。但し、健康によいと言われているほどにはオメガ3系の絶対量が多くはなく、また、水銀、カドミウム、鉛、スズなどの重金属や、PCB、ダイオキシンなどの有害物質を含むため、過剰摂取や特に大型魚には注意が必要です。

植物性食品

植物性食品では、ココナッツパウダーはココナッツ油と同様の脂肪酸構成です。枝豆はオメガ3系のオメガ6系に対する比率がよく、おつまみというよりは立派な食品です。枝豆は栄養豊富な大豆そのものですから当然といえましょう。

クルミ、ヘンプシード、チアシードはオメガ3系が豊富でオメガ6系との比率も理想的です(ヘンプシードよりも類似のフラックスシードの方が出回っていますが上記情報源にデータ収録されていないためヘンプシードを掲載しました。フラックスシードはオメガ3系が豊富でオメガ6系との比率がチアシードに近いものの、タンパク質はヘンプシードの半分程度となります)。これらは酸化に注意し、サラダにかけるなど加熱せずに摂取するようにしましょう。

焼き海苔もオメガ3系が豊富で、しかもビタミンB12が含まれるため、有用な食材です。

脂質摂取は何を注意したらよいの?

①エネルギー源としての脂質(糖質・タンパク質とのバランス)

脂質のうちの中性脂肪は、エネルギー源として重要な栄養素です。必要なエネルギーを全て糖質で取ろうとすると血糖値が急上昇し、体内に様々な問題を引き起こします。また、脂肪の方が太りやすいイメージですが、同じカロリーの場合、糖質の方が脂質よりも太りやすくなります(だからと言って無理に痩せようとして糖質を減らすと体が機能しなくなります)。それ以外にも、中性脂肪を取らないと、血中HDLコレステロール値減少による心疾患リスク上昇や、脂溶性ビタミン・必須脂肪酸欠乏などの問題が発生します。そのため、全エネルギー源の2~3割程度を中性脂肪から取るのがよいとされています。

②飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランス

脂肪酸は種類によって体内での作用が異なります。飽和脂肪酸は、体内で余ったグルコースなどから作られるほかに一定程度を食事からも取ることが推奨されていますが(全エネルギー源の5%以上)、摂取する脂肪酸比率の多くは飽和脂肪酸よりも一価不飽和脂肪酸で取るのが好ましいとされています。但し、鎖の短い中鎖脂肪酸はすぐにエネルギーとなってしまうため、大量に摂取しない限り、ココナッツ油やココナッツパウダーの飽和脂肪酸はあまり問題になりません。そのよい例として、ポリネシアなどの諸民族はエネルギー源の3~6割をココナッツ由来の中性脂肪で摂取していますが心臓病は稀です。

飽和脂肪酸は、血中のLDLコレステロール値を上昇させる作用があるため心疾患などのリスクが高くなります。糖尿病になる危険性も高まります。代わりに一価不飽和脂肪酸を摂取した場合、血中のLDLコレステロール値を上昇させず、HDLコレステロール値を低下させないため、生活習慣病になりにくいとされています。ギリシャ人はエネルギー源の3割をオリーブ由来の一価不飽和脂肪酸で取っていますが、それによって心臓病などになりにくいと言われています。

なお、一価不飽和脂肪酸の代わりに多価不飽和脂肪酸を取ると、特にオメガ3系は血中のLDLコレステロール値の抑制やHDLコレステロール値を改善する作用が期待できます。ところが、殆どの食品では多価不飽和脂肪酸の比率が低く、無理に取ろうとするとオメガ6系の過剰摂取にもなり、また、多価不飽和脂肪酸は酸化しやすいため(発癌物質を増やす作用)、食事バランスを考えて取るようにしましょう。

③多価不飽和脂肪酸(オメガ6系とオメガ3系)のバランス

多価不飽和脂肪酸にはオメガ6系(n-6系)とオメガ3系(n-3系)があり、ともにヒトの体内では合成できないため必須脂肪酸とされています。但し、現代の食生活では、オメガ6系はむしろ過剰摂取状態となりがちです。

オメガ6系もオメガ3系も、ともにエネルギー源としての機能の他に、生理活性物質となって炎症を起こしたり、血小板の凝集を起こすなど多様に作用しますが、オメガ6系よりもオメガ3系の方が穏やかに作用したり、オメガ3系がオメガ6系のブレーキ役となります。そのため、オメガ3系を多く取ることで、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患が抑制されるなどの効果があります。逆に、オメガ3を取り過ぎると出血した際に血が止まりにくくなるなどの問題が発生します。

オメガ3系には固有の機能もあります。オメガ3系の脂肪酸にはα-リノレン酸(ALA)、EPA、DHAなどがありますが、α-リノレン酸は一部EPAに変換され、EPAはDHAに変換されます。DHAは脳や神経細胞に必要で、DHAを取ると「頭がよくなる」という証拠はありませんが、不足した場合に影響が出ます。但し、最近の研究では、α-リノレン酸を十分に摂取していれば体内で合成できるので問題がないとされています。心配な方は、海藻を濃縮したサプリを摂取するとよいでしょう。

なお、多価不飽和脂肪酸は酸化しやすいので、ビタミンEなど抗酸化物質とともに摂取するのが望ましいとされています。

④コレステロールの摂取

コレステロールは体内で作る量の方が多く、摂取した場合には体内合成が調整されます。大量に摂取する場合には幾つかの種類の癌との関連が示唆されているため注意が必要です。

トランス脂肪酸とは?

トランス脂肪酸が入っているからマーガリンは危険などと言われるようになりました。マーガリンは、常温で液体の植物油を使いやすくするために加工したものです。水素を添加して、一部を飽和脂肪酸に変換しています(融点が上がるために常温で固まる)。その過程で、水素分子の位置が通常と異なる(トランス型の)不飽和脂肪酸も発生します。これがトランス脂肪酸です。

トランス脂肪酸の健康に与える影響は研究途上で、これまでのところでは、大量摂取しない限り病気との関係は明確ではありません。但し、生活習慣病との関連を示す調査もあるため、なるべく摂取を控えることが望ましいといえます。

(まとめ)脂質の確認

脂質を、機能別に整理すると下表のようになります。

脂質(中性脂肪・コレステロール)の整理

目次に戻る

(注意)必要な栄養素や量については個々人の体質や活動状況によって異なります。
特に、内臓に疾患のある方やアレルギーのある方などは医師にご相談ください。